『銀剣のステラナイツ』~星屑舞う学園祭~

 

あなた方の力を貸してください

何物にも穢されない、強き願いの力を貸してください

この星は今も、異世界の獣、ロアテラに狙われています

生まれた地であるこの世界を守るために

故郷たる星を取り戻すために

私たちの声に応えてくれるのならば

あなた方の願いは、きっと叶うことでしょう

-------------

異端の騎士が現れる。

心と願いを歪ませた、星喰いの騎士が現れる。

此度の決闘、願いの決闘場に咲き乱れるは、

黒のオダマキ、青いコスモス、

そして舞台の中央に咲くは一輪の歪な

黄色のアネモネ

 

「銀剣のステラナイツ」

 

願いあるならば剣をとれ

二人の願い、勝利を以て証明せよ

 

-----------

 

監督:

導入は以上です。

六大学園合同の学園祭を控え、慌ただしくも楽し気な空気の漂うアーセルトレイ。皆様はどんな様子でお過ごしでしょうか。

前々日ですので、学園祭の準備を手伝うもよし、喧騒を避けて自室に引きこもるもよし、いつも通りのペースで過ごすもよしです。

 

まずは、紫苑さんと冬海さんのペアから始めましょう。よろしくお願いいたします。次に、八朔さんと顕子のペア、最後にエクリプスである藍とシトリンさんという順番で進めたいと思います。

 

ちなみに、シチュエーションが特に浮かばない場合などは学園祭専用シチュエーション表(P229)や共通のシチュエーション表(P124-127)を使用してください。

 

PC一覧】

相羽紫苑(俳優:まりか)

篠原冬海(俳優:おの)

本条八朔(俳優:おの)

六条顕子(俳優:koto

片岡藍 (俳優:koto

シトリン(俳優:まりか)

 

監督はkotoが務めさせていただきます。

 


紫苑-冬海ペア 第一章イントロ

 

相羽紫苑(以下 紫苑):

学園祭を2日後に控えて、キャンパスはいつも以上に賑わっていた。

イベント前特有のざわざわとした、落ち着かない雰囲気。

去年までの自分なら、それはそこまで嫌いなものではない。

しかし、今年はどうしても友人たちと祭りを楽しむ気になれず、無意識のうちに人気が少ないエリアに足が向いた。

 

 

図書館へ続く誰もいない廊下にて。

「再び力を望むか。我が子よ。」

声が聞こえた気がした。

廊下の先に、黒いダスターコートを着た男がいた。

彼が身に着けている白い仮面のせいで、その男の顔は見えない。

「まだ願いを追う意志はあるか。あらゆる世界の危機に必ず召喚されることを良しとするか」

それが自分への問いかけと気づき、きつく唇を噛む。

彼も星の騎士なのか。そういえば「誓約生徒会」という秘密結社のことを聞いたことがあった。

「私の願いが何なのか 。それを知っているならば、答えは決まっているだろう」

声を絞り出すようにしてなんとか答えると、その男は仮面の下でふっと笑ったように見えた。

「誓約生徒会へようこそ。これを君に与えよう。この先で運命が待っている」

手の中に残されたのは、機械仕掛けの黒い仮面と1枚のメモ。

「アーセルトレイ戦史・星喰いそして女神とは?」

論文?いや本の題名のように見えた。メモから顔をあげると、もはや仮面の男は消えていた。

 

koto:おお、素敵ですね! つ「ブーケ」

 

篠原冬海(以下 冬海):

中庭を通って図書館までの道のりを歩いていくと、学園祭を前にした喧騒がどんどん小さくなっていく。さすがにこの時期に図書館を利用する者は多くないということだろう。まして旧い歴史の文献が数多く眠っているその地下には。

けれど僕は絶品と評され競争率の高い食堂のコロッケパンと引き換えに得たある本の情報を一刻も早く確かめたくて仕方がなかった。図書館の中に入ると学生証を提示し内部の生徒と教師しか入れないエリアに向かい、そそくさと地下に降りる。

「確か詩集のコーナーにあるって……」本を守るため抑えめになっている照明のなか分類表に沿って探していく。「あ、なんかこの辺っぽい」

その本の背表紙には『アーセルトレイ戦史・星喰いそして女神とは?』と刻まれていた。早く手に取ろうというその一心で左腕を伸ばすと、先にその本を取ろうとしていた別の人の手に触れてしまった。

「あっ…すみません!」そう言いながら手を下げ横を見ると、僕よりも少しだけ背の高い人物と目が合った。

 

紫苑:

「こちらこそ、すみま…」

言いかけたところで、手が触れた人物と目があった。どきりと心臓の鼓動。以前に覚えのある感覚。あの仮面の男が言った「運命」とはこのことだ。私は再び、あの女神たちに選ばれてしまったのだ。この目前の彼と共に

 

冬海:

不思議なことにそのまま目が離せないでいると、向こうも同じだったようでしばらく見つめあってしまう。不意にここにはあるはずのない花の香りと共に

「あなた方の力を貸してください」

という囁くような声が聞こえたと同時に今まで知らなかった知識が脳裏に刻まれる。

「ステラ、ナイツ……?」

 

koto:そっとブーケを投げる つ「ブーケ」

 

紫苑:

「こほん」彼の声に我に返り、手を引っこめて咳払いをする。

「いや、その本は君が持っていってくれて構わない。別に急いでないから。それじゃまた」

背を向けて踵を返す。とにかくひとりになって、頭を整理したかった。

 

冬海:

「ま、待ってください!」なぜかその人をひとりにしてはいけない気がして、思わず呼び止めてしまう。

「あの……せっかくなのでこの本、一緒に目を通してみませんか?」同時に手に取ろうとしたのには何か意味があるんじゃないかとも思ったからだ。

 

紫苑:

さっと振り返り

「君は星喰いとは何か知っているか?ステラナイツとは?」

相手を探るような硬い表情で。何かを怖れているように見えなくもない。

 

冬海:

硬い表情をしたそのひとの言葉に呼応するかのように、手に持っていた本がひとりでに開き、あるページを示した。そこには『みえないたね』というタイトルの詩が載っていた。ぱっと目を通すだけではよく解らない言葉の羅列だが、先ほど得た知識から言わんとしていることは理解できていた。

「星喰いの因子は不可視の種のようなもので、ここアーセルトレイの内部に封印されたロアテラという怪物が間接的に干渉するため市民に植え付けるもの、ですね」

そう答えると、本が違うページへと移動した。そこにある詩は『ほしのきし』。

「ステラナイツはふたりの女神と契約した輝きの騎士と暗闇の騎士がパートナーとなった者です」と重ねて答える。相手の反応を待ちつつ、もう一度その詩を読み返してみる。『うんめい つよく むすばれた ふたりのきしがねがう それは おなじ』

「運命のパートナーでもあるみたいですね……運命?!」

ぎょっとしてもう一度向こうの顔を見てしまう。

 

紫苑:

運命。その言葉に驚く相手の顔から判断するに、彼はステラナイツについて、今まで何も知らなかったらしい。当然のことではあるのだが。大きくため息をつくと、彼が持っている本をパタンと閉じる。

「もういい。わかった。君が私の今回のシースというわけか。」

不機嫌そうにもう一度大きくため息をついた後に

「ここでは難だ。場所を移そう。今、少し時間はあるか?」

 

冬海:

「あ、はい。学園祭の準備も自分の担当する部分は終わってるので」

正しくは早くここへ来るためにさくっと終わらせたのだが。

 

koto:そっと二人に一個ずつブーケをトス!つ「ブーケ」「ブーケ」

 

紫苑:

「学園祭か…」

啓示が今日ということは、ステラバトルは学園祭前日の夜ということになる。女神の呼びかけに応じるのか否か、それは彼が決めることだ。自分は正直に話すしかない。何も知らせないまま、彼をステラバトルに引っ張り出すのは、さすがに心が痛む。彼には断る権利がある。

「ここの1階のカフェテリアなら、今日は人も少ないだろう。少々長い話になるかもだけれど」

そう言いつつ、階段の方へ歩き出す。

 

冬海:

振り返らず歩いていくそのひとについていきつつ、先ほど言われたことを思い出す。ブリンガーとシースという言葉については先ほど流れ込んできた知識でなんとなく把握しているが、「『今回』のシース」というのはどういうことだろうか。そのうちに着いた階段を昇ると少しずつまぶしさが戻ってくる。

一階にはやはり先ほど入ってきたときと同じようにほとんど人がいなかった。僕がついてきているか気になったのか、振り返ったその人の姿をようやくはっきりとその目で見ることができたが、男性と女性どちらであるのかぱっと判別はできなかった。

 

紫苑:

「コーヒー?」

カフェテリアと言っても図書館付属のものは、セルフサービス式の簡素なものである。自分は無造作にカップに作り置きのコーヒーを注ぐ。「欲しかったら、ケーキもそこの冷蔵庫にある」

 

冬海:

普段はあまり飲まないのだけれど、相手がふたり分入れてくれたのでありがたくいただくことにする。「どうもありがとうございます。ケーキもあるんですね」そう言いながら冷蔵庫を開けるとバイキング形式で良くみる小さなケーキが並んでいた。数は多くなさそうなので、知る人ぞ知るという感じでこの時間まで残っているのは単に今日の利用者が少ないからなのだろう。これまたありがたく何個かを取り、

「何か食べます?」

と訊ねたところでまだお互いの名前も知らないことに気づく。

「ええと、僕は篠原冬海と言います。あなたの名前を教えていただいていいですか」

 

紫苑:

「いや」

と答えたところで、彼がケーキを数個取ってることに気がついて、

「じゃあ、せっかくだしケーキ1個くらい食べようかな」

と比較的甘くなさそうなものを1つ見繕って、自分の皿にとった。改めて彼の顔を見る。

「あ、そうか。名前。私は相羽紫苑」

まだかなり動揺してるなと、我ながら思う。

メガネをかけた目の前の彼は、ずいぶんと冷静な様子だった。まだ少年の面影が残る顔立ちである。ここの学生かな、とは思うけれど、今まで見かけたことはなかった。

「君は、ここの学生?」

 

冬海:

「相羽さんですね。よろしくお願い申し上げします」

そう言ってからまず最初にブルーベリーの添えられたケーキを平らげる。ソースには程よい酸味が感じられた。その後質問をされたので

「はい、そうです。今年大学に進学しました。理学部で地質と鉱物のほうを学んでます」

と返した。

 

紫苑:

「そう」

小さなフルーツタルトをつつきながら頷いた。

「私は医学部4年」

それだけを返すと彼の顔を見ずに

「ええとさ、今の状況は把握した?」と本題に入る。

 

冬海:

「ああ、はい。いちおうは」

流れ込んできた知識で大体はつかんでいる。

「相羽さんがブリンガーで、僕がシースという役割ですよね」

確認するように言ってから

「同じ願いを持つ者同士のペアということですが、相羽さんの願いってなんなんですか?」

と訊ねる。

 

紫苑:

あまりにもストレートな質問に思わずむせた。

「ええと、その、いちおう、ほら、ステラナイトになるの、断ることもできるから。君も、同じ願いを持つからという理由だけで、私とペアを組むこともないんだ。いや私がどうこうというよりも、君が嫌かと思って」

多少、しどろもどろになりつつも答える。

 

冬海:

「? 別に嫌とかそういうのはないですけれど」

と言ってから少し考えて

「相羽さん的には、全く初めて会った者同士でペアを組むというのは抵抗があるということでしょうか?」

と続けた。まあ、抵抗がないほうが珍しいといえばそうなのかもしれない。

 

紫苑:

「いや、そういうわけではないんだけれど」

とまた少々口ごもる。どうも彼といると自分のペースがつかめないようだ。

「私は以前自分のシースをひどく傷つけてしまったことがあるから。それは知らせておこうと思って」

真っ直ぐな彼の視線に耐えきれなくて、コーヒーをひとくち啜り視線をそらした。

 

冬海:

「ああ、それで『今回の』シースと言っていたんですね」

つまり、このひとは過去にステラナイトだったということだ。

「でも、それでももう一度ステラナイトとして動きたいと思うということは、それだけ強い願いを持っているのではないですか?」

 

紫苑:

「そう、かもしれないね。自分ではよくわからないけど」

そう言って、軽いため息をついた。

「私のことはいい。それでも君は私と共に星喰いと戦う気があるのか、ということだ。」

そう自分が言っても、彼の視線は揺らがない。

「…君にも、どうしても叶えたい願いがある?」

 

冬海:

「僕の父親は考古学者で、僕が小学生の高学年になったくらいから調査へ一緒に連れて行ってくれるようになったんです。色々な場所に色々な種族の方々がいて、なかにはほんとうに危険な場所で暮らしていたりして。ある日、訊ねたことがあるんです。どうしてここで暮らし続けるのかって」

そのときの相手の顔を思い浮かべながら続ける。

「答えはこうでした。『それでも、自分の故郷だから』 ……そのときに思ったんです。この世界がそういった方々にとっても安らぎに満ちたものになって欲しい。けれど、それは力のない個人じゃ絶対叶えられないものだとも。けれどいま、こうしてステラナイトの知識を得て。その願いを叶えられるというのならば、僕は相羽さんと共に星喰いと戦います」

宣誓するように言葉を続けると、ふたたび脳裏に女神の声が響いた。

 

koto:冬海くんにブーケまとめて3個! 尊い……つ「ブーケ」「ブーケ」「ブーケ」

 

紫苑:

「わかった。君がそういうのならば、私も再び剣を取ろう。争いのない世界のために」

女神たちの囁きが聞こえる。

「フラワーガーデンでの戦いは2日後だ。この世界を守るために、君の力を貸してくれるかい?」

そして柔らかく微笑んだ。彼となら、また戦える気がする。花咲き誇る戦場にて。

 

冬海:

戦いは2日後、ということに気をひきしめつつ、

「はい、もちろん! よろしくお願いします」

そう言って相羽さんの前に右手を差し出す。

 

紫苑:

「こちらこそ、よろしく」

少し照れたように微笑み、差し出された彼の手を握った。

 

koto:お二人に一つずつブーケ!「ブーケ」「ブーケ」

 

 


 

監督:

ここで紫苑-冬海ペアの第一章は終了。続いて八朔-顕子ペアとなります。

 


 

八朔ー顕子ペア、第1章イントロ

 

本条八朔(以下 八朔):

 本条八朔は悩んでいた。

「うーん……どうするッスかねえ……もう明後日ッスよ……」

 最後の仕込みに余念のない調理準備室で、ひたすら腕を組みながら考え込む。

「どーしたよ、本条。必要な素材があったら今日には買い込んでおかないと間に合わねーぞ?」

 パンの生地をこねながら、今回同じ模擬店グループになった同級生が八朔に声を掛ける。

「そうなんスよねえ……けど、この米に合うおにぎりの具がどれもピンと来ないんスよ……」

 八朔の目の前には、試作した複数のおにぎりが大中小ばらばらに並んでいる。

「……お前の場合、すぐおにぎりでかくなっちまうから具と米のバランスが取れてねえんじゃないか?」

「その可能性は否定しないッスね」

「しないのかよ」

 同級生は苦笑しながらこね終えたパン生地をのばし、くるみを混ぜ込んでいく。

「まあ本条の試作したおにぎりはそのまんま俺らの昼食になるから多いほうがいいといえばいいんだけどさ」

「良くないッスよ! ……うーん」

 また頭をひねりはじめた八朔の脳裏に、突然あるイメージが浮かぶ。

 これが何かのアイデアのひらめきであれば良かったのだが、そこに広がったのは花咲き誇る戦場だった。

 同時に女神の囁きが響く。次のいくさは学園祭前日の夜である、と。

「あ、あ――――!」

「お、なんか思いついた?」

「いや、違うッス……」

 八朔は慌てて壁の掛け時計を見る。もうすぐ昼休みにさしかかる鐘が聞こえてくるところだ。

 複数のおにぎりのなかから、大中サイズを何個か掴みとり袋に詰め込むと、八朔はジャージの上を羽織る。

「ん、今日も差し入れ? ほんとまめなこったねえ」

 割といつも言われ慣れていることなので、八朔はさっと右から左に受け流すと部屋の扉へと向かう。

「残りはみんなで食べてくれッス!!」

 言われずともそうする、と八朔のおにぎりの周りには既に複数の同級生が群がっていた。

 

 鐘がなったころ、八朔は分校から本校に直接向かうエレベータのなかにいた。 

「きょうは天気がいいッスから……、屋上にいるッスかねえ」

 実のところ、特に待ち合わせをしているわけでもない。だが、不思議と足を運ぶ場所は同じになる。

 それも繋がれた縁による力なのだろうか、と思いながら八朔はエレベータを出て、屋上への一歩を踏み出した。

 

まりか:すごく、いちゃいちゃが期待できそうな予感がするので、ブーケ1つ投げときますね。「ブーケ」

 

六条顕子(以下 顕子):

「そろそろいらっしゃるかしら」

 お茶のポットとプラスチックのカップを用意しながら、人の姿もまばらな校舎の屋上で、私は呟いた。待ち合わせたわけではないけれど、何故か毎日のように一緒に昼食を共にする相手のために用意したお茶は、朝学校に来る前に丁寧に淹れたものだ。デザートの果物に用意した果物も食べやすい形に切られている。もしも彼が来なかったら、それが昼食になるはずだった。でも大抵、彼はお昼を携えてやってくる。

「今日はおにぎりかしら、サンドウィッチかしら。きっとおにぎりね」

 何故かその日のメニューを確信しつつ、毎日お茶を用意する自分が時々おかしく思える。これも彼との「運命」の絆ゆえなのだろうか。不思議ではあるけれど、楽しい。

 彼の作る食事はどれも美味しいけれど、とびきり美味しく感じられるのは、贅沢な食材を使ったものでも、凝った料理でもなくて、おにぎり。

 だから、彼のおにぎりが届く日が、一緒に食べられるその時が、私にはとても幸せに感じられるのだった。

「あの日、初めて食べさせて下さったのがおにぎりだったからかしら……刷り込みというものでしょうか」

 誰に聞かせるともなく呟いた言葉とともに、足音が聞こえてきた。

 

八朔:

屋上に着いて扉を開けると、一陣の風が吹き抜けていった。思ったよりもひとはおらず、目的の人物もすぐに見つかると同時にこちらに気づいて手を振ってくれたので、自分も同じように返しながら近づいていった。

「こんにちはッス、顕子さん」

そう言ってから「お邪魔するッス」と敷物にあがらせて貰う。

既に並べられている弁当箱の横におにぎりを置く。

「今日のは試作品から適当に掴んできたんでちょっとどれに何入ってるか把握してないッス、すまんッス」

そう詫びながら、色とりどりのフルーツに目を移す。

「おや、今日はスターフルーツが入っているッスね」

 

顕子:

「ごきげんよう、八朔さん。いいお天気ですね」

お茶をついで差し出しながら、置かれたおにぎりに顔がほころぶのが抑えきれなかった。

「ええ、スターフルーツはちょっと酸味がありますけれど、サラダにしても美味しいんですのよ……早速ですけれど、おにぎり、いただいてもよろしくて?」

「どれが何かわからないなんて、とても楽しみですわ」

と言ってから思いついて、

「ああでも。よろしかったら二人で半分ずつ分け合いませんか? わたくし、せっかく八朔さんが作ってくださったのに、一つ頂いたらお腹が一杯になってしまいますから。……何種類か頂いてみたいんですの」

八朔:

「あー、今日は小さいのも作ってたんスよ。そっち持ってくれば良かったッスね」

と言いながら貰ったお茶を飲み干してからおにぎりの包みを解くと半分に割り、具材が多めになっているほうを顕子さんの分として渡す。

「良ければ、お米に対して具がどんな感じだったか教えて欲しいッス」

 

顕子:

おにぎりを受け取り「これなら二つは食べられそうです」と微笑む。彼のお茶のお代わりを注いでからおにぎりを口に運び、幸せな心地で頂く。

「このジャコのおにぎり、単体よりも先日の梅干しと合わせたら美味しい気がいたします」

美味しいものは合わせるとより美味しい、と付け加えて。

「合わせて、といえば」

おにぎりを食べる手を止めて。

「また八朔さんと花園でご一緒する日が近いようですね」

いささか声が小さくなるのが判る。この素敵なお料理を作る手を、才能を、いくさ場に引き出すのかと思うとやるせなかった。彼にはきっとほかにもできることがあるだろうに。

 

八朔:

「ジャコに梅干しッスか!それは盲点だったッス」

ペンとメモ帳を出して走り書きする。

「米の違いをわかってもらうのには塩むすびが一番なんスけど、それだけだと普通に手抜きって言われちゃうんスよねー」

そう言いながら自分もおにぎりを頬張る。タラコも産地が別のものを使えばまた違うかもしれない。

声をひそめて花園のことを話され、本来最初に話し合うべきだったことを思い出す。

「そ、そうそう!学園祭の前の日の夜だ、って言ってたッス!」

慌てて言ったせいか、むせてしまう。おかわりで貰ったおいしいお茶を飲むと多少は落ち着くことができた。

「ちょっとは時と場合を選んで欲しいッスね」

 

顕子:

そっと八朔さんの手に触れ「わたくしは貴方をお守りできるのが嬉しい。貴方の手はおいしいごはんを作り、笑顔を生み出す手ですわ。そんなあなたの力となれるのがどんなに誇らしいか。でも……そうですわね、皆様の笑顔を守るためとはいえ、多少配慮があっても良いと思いますの」ぷんぷん。

 

八朔:

「顕子さんは自分を買いかぶりすぎッスよ。けど、顕子さんが守ってくれてるから自分は安心して戦えるッス」

と笑って返す。

「まあ、怪物が配慮してきたらそれはそれで怖いッスけどね」

そう言っておにぎりを平らげる。

「デザート、いただいていいッスか?」

 

顕子:

「それなら精一杯お守りします」

指をそっと引っ込めて、代わりにデザートの器を差し出す。

「もちろん、一杯召し上がってくださいね? わたくしだけではお腹がはちきれてしまいますから」

八朔さんがデザートを口に運ぶのを眺めつつ

「八朔さん、実はお尋ねしたいことがあるのです」

真っ直ぐに八朔さんの髪の下に隠れた目を見つめ。

「どうしてこんなに親切にしてくださるのですか? わたくしが、パートナーだから……ですか? 貴方のお心遣いに、わたくしは十分に応えられている気がしないのです」

深呼吸をして

「わたくしは気が付かないことで貴方を失うことが、とても怖いのです」

 

まりか:

もっともっとと煽るために、ここでブーケをおふたりに1つずつ投げる! 「ブーケ」「ブーケ」

 

八朔:

「パートナーだからじゃなくて、顕子さんが顕子さんだからッスよ。それに自分は自分のやりたいように動いてるッスから、そんなに考えこまなくて大丈夫ッスよ」

と自分も顕子さんの目をちゃんと見て話し、それから笑ってウサギの耳がついたリンゴを口にほおばった。

……あ、そうだ。明日の早朝に市場へ学園祭用の買い出しに行くんスけど、朝6起きとかでも大丈夫だったら顕子さんも一緒にどうッスかね?」

自分だけでは無理でも、顕子さんと一緒に回ればよりよいおにぎりの具のアイデアが浮かぶかもしれない。

 

顕子:

「わたくしがわたくしだから」

その言葉を繰り返してその髪に隠された瞳を覗き込むようにして

「では、どうか不満や伝えたいことは必ず仰ってください。わたくし、全く自慢になりませんがどうやら鈍いようですから。八朔さんとこうしてご一緒できることがとても幸せなのです」

提案を受けて

「参ります!ぜひ市場に連れて行ってくださいませ。荷物運びの手くらいにはなるのでは……ないかしら」

大荷物を持つのは慣れていないけれど頑張ろうと心に決めた。

「八朔さんとお出かけするなんて、何だか嬉しいです。おにぎりの具、きっといいものが見つかりますわ」

 

八朔:

「解ったッス。気になったことがあればちゃんと言うッスから」

と言い、提案を承諾してもらったことには

「ありがたいッス。でも荷物は運ばなくていいッスよ? この時期は他にも買いにくる学生が多いッスから、市場の職人さんたちが直接学校まで運んでくれるんスよ」と。

 

顕子:

「これからも八朔さんのおそばにいたいと思うのです」微笑む。

職人さんが配達してくれると聞いて

「まあ、市場の方と言えば皆様お忙しいでしょうに、なんて親切なのでしょう。それだけ多くの学生が市場を訪れるということでしょうけれど。でも、それならわたくしは何をすればよろしいの?」

 

八朔:

正直なところ自分はそういう風に言ってもらえるような人物ではないと思うのだが、顕子さんの微笑みにうなずく。質問には

「おいしいおにぎりのための具材選びッスよ! あ、あとは夕食用に何か見繕ってもいいッスね」

と返して

「じゃあ、明日は朝の六時半に駅前、で大丈夫ッスかね?」と訊ねた。

 

顕子:

「お任せください、今まで頂いたおにぎりの具から考えて、学園祭で出すのに最適な具材を見つけて見せますわ」

それなら自信があるとばかりに笑ってから

「お夕食もご一緒してくださるの?」と目を輝かせる。

「承知いたしました。楽しみにしております。それまでにおにぎりメモを見返します」

 

八朔:

「おにぎりメモ?! 顕子さんマメッスね……

さすがに少し驚きつつも

「学園祭前日の夜、って言ってたッスからね、夕方あたりからはもう一緒にいたほうがいいと思うッスから。逆に明日昼は調理準備室に詰めっきりになるかもッス」と返す。

 

顕子:

笑みを向け

「頂いた幸せを忘れたくありませんもの」

それから真顔になって

「そうですわね、八朔さんが一日中お忙しいのが心配ですけれど、戦いに備えてそうした方がよろしいでしょうね。わたくしも明日はお昼を一人で頂きますし、少しでも昼の間にお休みくださいませ?」

気づかわしげに。

 

八朔:

「夜はちゃんと寝てるから大丈夫ッスよ。顕子さんも今日は早く休んでおくッスよ?」

と笑って、シメにスターフルーツを口にした。

 

顕子:

「そういたします。クラスの出し物の準備が終わりましたら早々に帰宅いたしますね」

お茶を一口飲んでから

「今日のおにぎりも美味しかったです。ごちそうさまでした。あっ、でもたらこはもう少し炙って焼き目をつけた方が美味しいかもしれませんわ」

と言いながら広げた弁当箱を片付けた。

 

まりか:

最後に、いちゃいちゃごちそうさまでしたということで、お二人にブーケを3つずつプレゼントいたしますね。「ブーケ」x6

 


 

監督:

ここで八朔ー顕子ペアの第一章は終了。続いて藍ーシトリンペアとなります。

 


ステラナイツ、藍ーシトリンペア、第1章イントロ

片岡藍(以下 藍):

夜、自宅にて。

俺はひとり、持ち帰った仕事を片付けながら、先日保護施設の院長である旧友の小嶋から聞いた話を反芻していた。

ステラナイトとして何度かともに戦ったパートナー、シトリンの生い立ちのことだ。

彼女は別の階層から来た、いわゆる「隣人」だ。金髪に薄い金色の瞳。輝かしい光の姿とは裏腹に、闇深く残酷な生き方を強いられていた子だった。故あって彼女を保護していた小嶋は、その経歴を知っていたが、あまり彼女に偏見を持たないでほしかったらしい。

「俺が彼女を貶めるような偏見を抱くと思ったのか?」

と尋ねれば苦笑して、お前だから逆に聞かせたくなかったんだよと呟いて酒を呷っていた。

 

辿ってきた道は想像を絶するものだった。

促成培養槽で造られ、その意を問わず暗殺者として育てられ。何人もの血で手を汚し、それをひたすら繰り返す生活。

あの華奢でたおやかな姿からは想像もつかないほど、厳しく惨い時間を過ごしてきた少女。

その手を取って「ともに戦ってほしい」と願うことはどれほど残酷だったのだろうか、と頭をかきむしる。

たとえ同じ願いを心に抱きながら生きているとしても、女神たちに選ばれたとしても、それは肯定されていいことなのだろうか。

 

大学を出てすぐ、高校の化学の教師になった俺は、今まで色々な生徒に遭遇してきた。

いくつもの表情を見つめながら、俺なりに一所懸命誠意をもって務めてきたつもりだ。必死だったともいえる。

それもこれも、昔、病の床にあった俺を救ってくれた恩人(亡き両親の友人でもあるのだが)に恩返しをしたいと言ったら、

「教師になるなら生徒たちを立派に助けてやりなさい。それで十分だ」と笑って肩をたたいてくれたことが忘れられないからだ。

それゆえに生徒たちを育て、困っているこどもに手を貸すことが生きる目的にもなっていた。生徒を救えない自分の行き届かなさに、歯噛みをして眠れない夜もあった。

ひとの笑顔が見たい。この手を伸ばして救えるものは、たとえ手がちぎれても救いたい。そう思っていた。

 

忙しい合間を縫って、小嶋と酒を酌み交わすのがひと時の安らぎだったそんな頃。小嶋の施設に引き取られていた彼女と出会い、星の騎士となった。驚いたが、俺にも願いはある。この子にもあるのだろう、と受け入れてしまった。

最初はそっと見守るだけで十分だった。戦いの予感があったときだけ彼女の手を取るのは図々しく思えて、何くれとなく世話を焼いた。

少し事情が変わったのは、最初は中学生だった彼女が数年の時を経て、少しずつ張り詰めたものが和らいだ頃からだろうか。俺をそっと「マスター」と呼ぶ、シトリンのぎこちないながらも柔らかな表情に触れるようになって、心に何かが生まれてきたのを否定できない。

「大切な預かりもの」

「可愛い生徒」

それ以外の何だというのだ。それ以上であるはずがない。

大体32歳のおっさんと、15歳の少女の間に……とここまで考えて、絶望的に危険な方向へ思考が向いていることに気付いて頭を振る。

いかん、いかんのだ。「それ」はマズイ。色々な意味で。

 

正直色々考えている暇はない。ないはずなのに、困ったものだ。心のすみに、金色の糸が舞う。そして。

「ああ、また戦いか……

花咲き乱れる園での戦いの、予感がした。何度経験しても肝が冷え、同時に気分の高揚が抑えられないその戦いを前に脳裏をよぎるのは、今は引き取って共に暮らす少女の面影。

「参ったな」

思わず深いため息をついた時、控えめなノックの音が聞こえた。

おの:

改めてブーケ投げておきますね つ【ブーケ】【ブーケ】

 

シトリン:

藍が返事をすると部屋のドアが開いた。

「マスター、ハーブティーを淹れてきたのですが?」

両手で抱えたお盆の上に、鮮やかな緑の葉で満たされたガラスのポットと、2つのグラスがのっている。彼女は部屋着のふわふわした素材のペールグリーンのガウンを着ていたが、それは彼女の瞳と髪によく映えた。

 

藍:

「ありがとう。少し休憩するか」

部屋に招き入れ、机の上の物を寄せてお盆を置くスペースを作る。カップが二つあることに気付いて座っていた椅子を立って勧め、自分はベッドに腰かけた。

「どうした、学校で何かあったか?それとも戦いのことか?」

多分後者だろうと思いながら。

 

シトリン:

「はい、次の花園での戦いが2日後と啓示がありました」

勧めた椅子に遠慮がちに腰掛けると、彼女は少し硬い表情でこちらにそう告げた。

「あ、それよりも、先にお茶を淹れた方がいいですね。冷めてしまいますから」

微笑んでポットをかかえ、手慣れた手つきでお茶をカップに注ぎ始める。

 

藍:

部屋に広がる爽やかな香りに目を細めつつ、カップを受け取る。

「そうだな、今回も厳しい戦いになるかもしれん」

呟きながら先ほどまでの思考が脳裏をよぎる。たおやかな少女を直接戦わせるのではないとはいえ、武具として連れていく。それだけでも胸が痛むのに彼女は。「なあ、シトリン。聞いておきたいことがある。この戦いだけでなく、星の騎士としてのありようのことだ」

カップをテーブルに戻してから、シトリンと視線の高さを合わせて床に膝をつく。

「パートナーとして、幾度か戦った。幸いにして君に傷をつけるような事態は避けられているが、今後もとは限らない」

溜息をついてから頭をかき

「こういう時何と言えばいいのか判らないんだが、君の体だけではなく、心も俺は心配なんだ……君の生い立ちを小嶋に聞いた。辛い、なんて言葉だけで表せるような過去ではないと思う。それを思わせるような戦場に君を連れていくことに躊躇いがある」苦しそうに。

「君を武器として振るうことは、まるで君の過去を利用するような気がするからだ。確かに振るうのは俺だが……今一度君の意志を知りたい。力を貸してくれるか? 願いを捨てることもできない弱い俺だが、共に戦ってくれるだろうか。」と。

 

シトリン:

始めはきょとんと少々戸惑ったように彼の言葉を聞いていた彼女であるが、彼の問いかけに花のように微笑んだ。「もちろんです。マスターのお役に立つことが、私の幸せです。」と穏やかに返す。

 

藍:

その答えに泣きそうに表情を歪める。

「マスターか。君はどこまでもそういう在り方なのだろうか。それは……俺を良くない形に甘やかすだけだよ、シトリン。だが、そこに依存するなら俺はただの馬鹿野郎だ。在り方も含めて君は俺のパートナーだ。君が笑顔を見せてくれるようになった今を俺は大切にしよう」

ひざまずいたまま、シトリンの小さな手を取り、そっと手の甲に口づける。手をおし頂いたままシトリンを見つめた時の表情は自分では推し量れなかった。

「君は俺の剣であり、鎧であり……貴婦人だよ、シトリン」

そう、敬意とともに線を引こう。

「守るべき人」だと。

手を優しく離してから

「君は自由だ。何を望むも……まあほら、犯罪は良くないが……君が法と倫理の下許される何を望もうとも俺は止められないし、止めないようにしよう。助言はするがな。いつか君が本当に望む道を選んだとき、送り出せる人間でありたいと思うよ」

そう言って立ち上がる。

「お茶が冷めてしまうな。頂こうか」カップを手に取ってベッドに座る。

 

おの:

情熱を内に秘める藍さんにブーケ投げておきますね つ【ブーケ】

 

シトリン:

藍の言葉を黙って神妙に聞いていたシトリンは、藍が元の姿勢に戻るとおずおずと口を開いた。

あの、私、何かマスターの気に障るようなことをしたでしょうか?」

 

藍:

お茶を噴きだしそうになって慌てて飲み込む。ハーブティの香気が鼻を通り抜けた。

「いや、そんなことはない。どうしてそう思った?」距離を置いたことをそう取られたのだろうか。

 

シトリン:

「マスターが悲しんでいるから。いえ、すみません」そう、ためらいつつ言い、身を縮め視線を落とした。

 

藍:

身を縮めたシトリンに内心唸った。それは誤解で勝手に自分が右往左往しているだけだと伝えても彼女の気は晴れないだろう。だが。

「君が、シトリンがいけないわけじゃない。それと、謝ったりしなくていい。言いたいことを言いたいように表現していいんだ。……お茶、旨いよ。有難う」

 

シトリン:

「す、」と言いかけて、彼女は言葉を飲み込んで、そして続く藍の言葉に、心から嬉しそうに微笑んだ。

「はい、マスター。喫茶店のご主人から頂いたんです。とても美味しかったので、ぜひマスターにもと思って。...正しく淹れられたみたいで、良かったです」

 

おの:

両片思いってやつですな…… シトリンさんにもトスしておきまする つ【ブーケ】

 

藍:

何か言葉を飲み込んだのは判ったが、追求するより気になった言葉が。

「行きつけの喫茶店があるのかな?」

彼女が美味しいと感じて、学生生活を楽しんでいるとしたら、それはとても好ましく思えて微笑んだ。

「上手だよ。俺はどうも計量や湯の温度が気になって、もてなす心に欠ける」笑う。

 

シトリン:

「ありがとうございます」彼の褒め言葉に輝くような笑顔で応じる。

「よく授業の後に、お友達といっしょに行きます。いっしょに宿題をやったり、あと学園祭の相談をしたり、とか。」そう言った後に、

「今度、マスターも一緒に行きますか?お買い物の帰りとか?」小首をかしげて尋ねる。

 

藍:

目を細めて彼女の笑顔に見入っていたが、喫茶店に誘われてたじろぐ。一緒にいて金や体の関係を疑われたり、不躾なことを言われたりしたことがある身としては、彼女がそんな目で見られるのがたまらなく腹立たしく嫌だった。共に歩くなら、もっと年の近い相手がいいだろう。

自分の中のやましさを自覚するからこそ、必要なこと以外は連れ立って歩くのは避けた方が良いだろうと思った。

「せっかくだから、友達と行っておいで。買い物の帰りなあ」

逃げ道を塞がれた感がある。

「そうだな、たまにはいいが、早めに帰りたいからいい茶葉と菓子を買って帰る方がいい」

 

シトリン:

シトリンはほんの少ししょんぼりしたような表情を浮かべるがすぐに笑顔に戻り

「それなら、良いお茶の葉を喫茶店のご主人にまた頂いてきますね。お菓子はお菓子は、学園祭なので、今焼き菓子を学園祭で出そうと思って、お友達と練習してるんですけど、なかなかお店みたいにうまくできなくて」

 

藍:

「簡単に出来たら菓子屋は商売あがったりさ。落ち込むことはない。だがそうだな、菓子は計量が命と聞いたぞ。材料を正確に計って温度管理を徹底する。それだけでも違うそうだ。もし心当たりがあるならやってみるといい。良かったら今度作ってくれ」

笑顔を眩し気に見やりながら。

 

シトリン:

「材料はちゃんと測ってるはずなんですけどオーブンに慣れてないからかな?」

と首をかしげて答えた後に、

「はい、それでは次の週末に。でもその前に学園祭が、そして」

ここで少し言いよどんで、目にちらりと不安の影をのぞかせた。

「花園での戦いがありますね」

 

藍:

無意識にその話から遠ざかりたかった自分がいたが、彼女の不安を無視などできない。

「大丈夫だ、今回もきっと勝てるさ」

本当は抱きしめたかった。

「俺たちはそれだけのものを積み重ねてきている。負けなどしない。幸せを、願いを守りぬけるさ」

せめて、許されるならとそっと頭を撫でる。

 

シトリン:

「はい!」

シトリンは頭を撫でられると心から嬉しそうな笑顔を浮かべた。それはまるで可憐な花がほころぶようで。「マスターは今度も勝ちます。きっと」

 

藍:

「ありがとう」

頑張れ俺の理性。などと益体もない言葉を脳裏によぎらせながら、彼女の笑顔を胸に刻んで。

「そうだな。終わったら菓子の材料を買いに一緒に出掛けよう。……そのついでに喫茶店に行ってもいいな。忙しいから体調管理には気をつけるんだぞ」

少し早口になっただろうか。

 

おの:

がんばってる藍さんに投げておきますw つ【ブーケ】

 

シトリン:

その藍さんの言葉にシトリンは「あっ」と小さな声をあげた。そして置き時計を見て

「あの、もう遅いので、そろそろ部屋に戻ってもいいでしょうか?」とたずねる。

 

藍:

その言葉にこちらが慌てる番だった。

「ああ、悪かった。これは片付けておくから早く休みなさい。明日も忙しいだろう?」

冷たくなったカップの中身を飲み干して

「うまかったよ、有難う」もう一度そう伝えトレーを持とうと手を伸ばす。

 

シトリン:

「はい。それでは、おやすみなさい。お買い物と喫茶店、楽しみにしています」

シトリンはそう、弾むような口調で言うと、頭をぺこりと下げて部屋を出ていった。

 

藍:

シトリンの部屋のドアが閉まる音を聞いてから、深く溜息をついた。

「何やってるんだ俺は。結局誘っちまったじゃないか」

別に保護者が一緒に出掛けたところで何も悪くないが、いくらかのやましさ故に頭を抱えた。その後トレーを手に取って部屋を出ると、キッチンで茶器を洗うのだった。

 

おの:

おつかれさまでしたー へばってる藍さんと小悪魔シトリンさんにそれぞれひとつずつ つ【ブーケ】【ブーケ】

 

 

 

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